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サプライチェーン・サイバーセキュリティが世界を揺るがす(5)
― 終わらないファーウェイ、ZTE 問題 ―
小沢知裕(2019.4.19:CISTEC Journal 3月号掲載[2019.4.1])



輸出規制違反がもたらした劇薬


1. 命運を絶たれかけたZTE社

 さて、第1回第1節で触れたように、ファーウェイ社とZTE社は第5世代通信規格への参加を絶たれつつある。技術的にもセールス規模的にも突出するこれら二社にとって、これは緩やかな死刑宣告といえるだろうか。しかし、ZTE社には、これ以前に遥かに劇的な措置が採られかけていた。米国企業の先端的技術を使用した製品の購入を禁じられかけていたのである。これは、同社にとって劇薬に例えられ得るほどの措置であった。

 ZTE社製品は構成要素(部品など)の25~30%を米国から供給されているという。これには中核部品が含まれるというが、そこにはICチップやメモリーだけではなくOSなども含まれる21。これらの要素を購入できないとなると、米国市場を失うというレベルのダメージではない。世界36カ国に販売しているというデータ通信機器を始めとする多くがその影響を受け、製造そのものができなくなる22。会社としての命運を絶たれることになる。まさに即効性の毒薬である。もちろん、代替する製品や技術に置き換えることによって、回復を図るという方策はあるだろう。しかし、それにはかなりの資金と期間とを必要とされることだろう。

 ことの発端は2016年に起こった。ZTE社の米国人社員が米商務省に秘密の内部文書を持ち込んだのであった。そこにはイランとのビジネス(無線通信網構築)や、北朝鮮とのビジネス(携帯電話の販売)の注文が記述されていた。これらの国々に米国製品や技術を使用した同社製品を販売することは、米国による制裁に反していた。商務省はこの内部文書を一般に公開し、同社に対する米国企業からの部品などの供給を厳しく制限した。具体的には、米産業安全保障局(BIS)のエンティティリストに入れ、同社へ販売する米国企業は特別な許可を得なければならないようにした。ZTE社の製品は大きく米国企業の製品や技術に依存しているため、同社にとって、これは大きな打撃となり、事実上の操業停止に追い込まれた。例えば、同社のスマートフォンには米クアルコム社製のICチップなどが使用されている23


2. 回避された「劇薬」

 ZTE社の命運を絶たんとするかのようなこの措置を回避するため、同社は繰り返し対応を採ってきた。指摘を受けた約1ヶ月後には商務省の要求に応じ、経営陣3人を退陣させた。退陣が決まったのは、CEO及び副社長2名であった。これによって、一時的に制裁が解除され、ZTE社の米国内での業務が再開された。翌2017年に、米商務長官ウィルバー・ロスが求めた11.9億ドルの制裁金にも同社は応じた。同省による民間企業に対する制裁金の中でも、これは過去最高額であった。

 しかし、翌2018年4月には、ZTE社に対し、再び制裁が適用されることとなった。理由は、以前の合意に基づき、本来は禁じられた輸出に関連した社員に「懲戒する代わりに報奨を与えた」ことを「看過できない」としたものであった。このとき、制裁金は更に積み増されている。

 翌月、習近平国家主席からの個人的な依頼に基づき、トランプ大統領が制裁緩和に動いた。積み増された制裁金の支払いと、経営者の変更及び「高度の安全保障」の提供を条件として、ZTE社の営業を許可するとした。ZTE社は同月、同社共産党委員会の幹事長を退任させることを表明し、6月末には理事会メンバー全員を刷新し、新しい理事長を選任した。7月にZTE社は新たな制裁金14億ドルを完済し、制裁を解除される。この14億ドルは、2017年3月の合意に基づいて支払われた8.9億ドルとは別に支払われたという。これらの制裁金支払によって、ZTE社の米国内ビジネス数年分の利益が飛んだという報道もある。


3. F7社(仮名)とファーウェイ社への追求

 ファーウェイ社やZTE社から見ると、このように致命的な制裁を科され得る輸出規制違反問題は、サプライチェーン・サイバーセキュリティ脅威と双璧をなす壁であった。そして、明白な証拠を捉まれ、苦境に立たされたのはまずZTE社であった。しかし、ファーウェイ社もその疑いの眼差しを避けることはできなかった。

 ZTE社の輸出規制違反を明らかとしたものは米商務省が入手した同社内部文書であった。これは2011年に書かれたものとされるが、そこには、如何に米国の輸出規制を逃れてビジネスを行うかという同社の努力が描かれていた。この文書の中にF7社という仮名の会社が登場する。同文書に、この会社は手本として示されており、ZTE社のライバル会社と記述されている。そして、同文書中に描かれる記述はいくつかの点でファーウェイ社と一致していたのである24。実際、これを読んだ米商務省もF7社がファーウェイ社であると疑ったものか、同文書公表から間もない2016年5月、ファーウェイ社に対して、イランや北朝鮮、シリアなどへの輸出に関する過去5年間の取引記録を提出するよう求めている。同省はこれを、米国輸出規制違反の調査の一環であるとしている。

 そして、この調査の動きが劇的な結末として現れたのが、2018年12月1日のファーウェイ社副会長兼CFOの孟晩舟氏逮捕であろう。つまり、ZTE社にもられた毒薬は、いまファーウェイ社にも、もられようとしているのである。咎められたからといって、毒杯をただ諾々とあおるわけにいくはずもない。それは18万人の従業員を抱える大企業の命運を決めるのである。ZTE社のしてきたように、制裁金を科されればそれを支払い、経営者の刷新を求められればそれに応じる外にファーウェイ社の生き残る道はないだろう。

                                  (つづく



参考文献
21. Stecklow, Steve, Freifeld, Karen, Jiang, Sijia. U.S. ban on sales to China's ZTE opens fresh front as tensions escalate. Reuters.(オンライン)2018年4月16日. (引用日:2019年1月10日.) https://uk.reuters.com/article/us-china-zte/u-s-ban-on-salesto-chinas-zte-opens-fresh-front-as-tensions-escalate-idUKKBN1HN1P1.
22. ZTE. Enterprise & Government Business. ZTE. (オンライン) (引用日:2019年2月5日.) http://enterprise.zte.com.cn/en/about_us/service_lntroduction/.
23. Mozur, Paul. U.S. Restricts Sales to ZTE, Saying It Breached Sanctions. the New York Times. (オンライン)2016年3月7日. (引用日:2019年1月8日.) https://www.nytimes.com/2016/03/08/technology/us-restricts-sales-to-zte-saying-it-breached-sanctions.html.
24. ―. ZTE Document Raises Questions About Huawei and Sanctions. the New York Times. (オンライン)2018年3月18日.(引用日:2018年8月30日.) https://www.nytimes.com/2016/03/19/technology/zte-document-raises-questions-about-huawei-and-sanctions.html.