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無人航空機と変容する兵士像(3)
小沢知裕(2019.7.13:CISTEC Journal 5月号掲載[2019.6.13])



兵士が死なない戦闘


1. 地球の裏側からの攻撃

 人が乗っていない無人機を使用している限り、その機体を狙って反撃されても、パイロットたちは安全である。しかし、その操縦を行っている基地を狙うのであれば、反撃は可能ではある。実際にそのようなことが戦場で起こっている。

 第1回第1節で紹介した、イランによる無人機攻撃に対するイスラエルの反撃であるが、無人機指令センターを狙った大規模な空爆によって、無人機部隊司令官を含む、7 人のイラン人が殺害されている2。無人機を送る側も、あまり戦場に近い場所から行うと、反撃によって殺害されることがあるようだ。

 しかし、米空軍によるMQ-1プレデターやMQ-9リーパーを使用した攻撃は、そう簡単に反撃できない場所から行われている。これらの機種は、専ら、米国本土の各所に点在した空軍基地から操作されているのである(図1)。そして、機体そのものは、アフガニスタンやイラク、イエメン、ソマリア、パキスタンの上空で運用されている訳であるから、実に1万キロメートル以上離れた遠隔地からの攻撃といえる。反撃によって、攻撃者に人的な被害を与えようと思うなら、まず戦場から離れて飛行機を乗り継いで、米国内で破壊活動を行わない限り実現できないだろう。


図1. 無人機の遠隔操作を行っている空軍基地および訓練施設18 p.6
2014年時点の政府資料によるもの。このあと更に増えている34


2. 海底ケーブルと人工衛星

 これら空軍基地の中でも、報道などでよく取り上げられるものの一つにネリス空軍基地がある。ネバダ砂漠のラスベガスに程近い、乾いた大地の上に、多数のコンテナが設置されており、その一つ一つに無人機の操縦システムが一式ずつ納められている。操作に必要なデータの無人機とのやり取り(画像データの受信、操作情報の送信など)は、まず、欧米間で大西洋の海底を通る光ファイバーで送受信される。そしてその先の送受信は、欧州に設置されたパラボラアンテナから人工衛星を介し、中東やアフリカの上空にある無人機に向けて行われる。

 無人機が撮影した動画は、衛星などを介してパイロットへと送られてくるが、これは、以前は、衛星テレビなどと同様の暗号化されていないデータでやり取りがされていたらしい。このため、ある市販のBS放送視聴ソフトを使用することで、誰でも不正に受信することが可能だった。2008年~2009年には、それを利用して、イラクの武装組織がMQ-1プレデターから送られる動画を入手していたことがわかった。この問題は2009年の報道時点で、既に「対応された」とされているので、恐らく、今は暗号化がされて、簡単には見ることができなくなっているのだろう35

 米国本土の空軍基地から操縦しているパイロットたちは、もちろん、死への恐怖とは無縁である。後述するように、戦場のリアルタイムの高精細画像を毎日、12時間に亘って見続け、時には人の生死にかかわるトリガーを引くということはストレスフルだろうが、戦場に投入された兵士と異なり、彼らは自らの死への恐怖からは解放されている。


3. 爆撃機は墜ちていた

 さて、それでは、有人の爆撃機から爆弾を落とすという行為は、果たしてどれだけ危険を伴うのだろうか。第二次世界大戦まで遡って見てみると、爆撃機乗組員の死傷率は一般に、連合国側の戦闘員のうちでは最も高かったという。例えば、英国の爆撃機部隊で生き残ったのは100人中たった24人だった36 p.132-133

 それでは、一方的な殺害のように見える東京空襲ではどうだろう。地上で推定10万人といわれる死者が出ていたその上空で、爆撃機に乗る米軍人達に、命の危険はどの程度あったのだろうか。爆撃を指揮したカーティス・ルメイ将軍は、爆撃機の損失率を4%と語っている37。1944年3月9日の深夜から 10日に掛けての空爆で、爆撃機は合計325機出撃しており、そのうち14機が失われたのだという。そのうち何機かは燃える街の炎の起こす強烈な旋風によって空中分解したという38。爆撃機の中には、友軍機の落とす爆弾を尾翼に受け、辛うじて帰投した爆撃機もあったようだ39。また、米軍側の被害において、迎撃機、対空砲火に日本上空で撃墜される以外に、爆撃機の発着場であるマリアナ諸島の飛行場への空襲や、B-29の故障も大きな要因であったようである40

 ルメイ将軍は東京空襲に先立ち、爆撃機を軽量にするために後部機銃以外の全ての機銃を取り外すように指示を出していた。しかし、現場の多くは従わなかったのだという。これらの銃座は、対空砲やサーチライトを攻撃して、自機を防御するのに使用された。このことから、如何に爆撃機の搭乗員達が対空砲火を恐れていたかがわかる。死者数の圧倒的な差や、その死者が一般市民か戦闘員かの違いがあるとはいえ、爆撃機による空爆は、完全に安全な場所からの攻撃という訳でもなかったのである。


4. 空軍兵士の死亡確率0.004%

 それでは、第二次世界大戦終戦以後のパイロットの危険性はどうだろうか。表2に、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争における、従軍した米空軍人員と、戦死者数及びその比率を示した。それぞれ、0.096%、0.100%、0.004%と小数点以下の数字が並んでいる。この戦死者の発生率はどの程度の危険性といえるのだろうか。

 例えば一つ、湾岸戦争をピックアップして、その危険性を身近な例である日本の交通事故による死亡者の比率を取り上げて、比較してみよう。湾岸戦争は、米軍を始めとする国連多国籍軍が空爆を開始してから、約1ヶ月で終決している。この間に戦死した米空軍兵士は20名であり、従軍した空軍兵士56万人と比較すると、0.004%となる。対する、日本の交通事情であるが、2018年の年間交通事故死者は3,532人であった41。これを元に、総人口1億3千万人で割ってみると、日本全国において、月間の交通事故による死亡確率は0.002%となる。つまり、空軍兵士として湾岸戦争に従軍して死亡する確率は、日本に暮らしていて交通事故死する確率の倍程度ということになる。こう見ると、第二次世界大戦時の英航空兵を思えば、それなりに低い印象を受ける。


5. 空軍パイロットという危険な職業

 ところで、この20名の内訳はどんなものだろう。実績を眺めてみると、米空軍のF/A-18、F-14、F-15、F-16、A-10といった戦闘機、攻撃機や、大型攻撃機AC-130がイラク側のミグ戦闘機や地対空ミサイル、対空砲によって撃墜されている。撃墜されたパイロットたちは、脱出後、捕らえられた後に生還する者もあったが、撃墜時に死亡する者もあった42。AC-130が携帯型の地対空ミサイルに迎撃されたときは全搭乗員14名が死亡している43, 44

 表2に挙げたこれらの数値には、現地空軍基地における地上勤務者も含まれるため、前出の第二次世界大戦中の数値(英爆撃機部隊の生還率24%、東京空襲時のB-29損失率4%)とは単純に比較はできない。しかし、その比率は、同じ戦争における陸軍、海兵隊の比率と比べると、およそ十分の一程度となっている(表3~5)。これは極端に低いようにも感じるが、空軍ではパイロットを裏で支える地上勤務者が多いことを考えて、パイロットの人数だけで比率を見ると、そこまで極端な違いではないのかもしれない。有人航空機による戦闘は、第二次世界大戦時の英国の爆撃部隊のような、7割が生き残れないような時代に比べると改善しているが、やはり、死の危険と隣合わせの仕事であるようだ。

 ちなみに、もう少し最近の例として、シリア内戦の数字も見てみよう。シリアでは、米軍を始めとする有志連合が空爆を行ってきたが、米空軍兵士の戦闘における死者は、2018年8月29日時点で一人もいない。そして、陸軍では9名、海軍では4名、海兵隊では1名が戦闘において死亡している45 p.23。無人機の導入が、このシリアにおける、空軍兵士の安全性にどれだけ寄与しているかはわからないが、とりあえず、無人機の本格導入後、シリアの空に散った米空軍兵士はいないようである。

表2. 米空軍兵士戦死率(朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争)45 p.2-3
戦争・紛争 参加人数(人) 戦死者数(人) 比率
朝鮮戦争(1950-1953) 1,285,000 1,238 0.096%
ベトナム戦争(1964-1973) 1,740,000 1,745 0.100%
湾岸戦争(1990-1991) 561,000 20 0.004%
表3. 米陸軍兵士戦死率(朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争)45 p.2-3
戦争・紛争 参加人数(人) 戦死者数(人) 比率
朝鮮戦争(1950-1953) 2,834,000 27,731 0.979%
ベトナム戦争(1964-1973) 4,368,000 30,963 0.709%
湾岸戦争(1990-1991) 782,000 98 0.013%
表4. 米海軍兵士戦死率(朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争)45 p.2-3
戦争・紛争 参加人数(人) 戦死者数(人) 比率
朝鮮戦争(1950-1953) 1,177,000 503 0.043%
ベトナム戦争(1964-1973) 1,842,000 1,631 0.089%
湾岸戦争(1990-1991) 669,000 6 0.001%
表5. 米海兵隊兵士戦死率(朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争)45 p.2-3
戦争・紛争 参加人数(人) 戦死者数(人) 比率
朝鮮戦争(1950-1953) 424,000 4,267 1.006%
ベトナム戦争(1964-1973) 794,000 13,095 1.649%
湾岸戦争(1990-1991) 213,000 24 0.011%

                                  (つづく



参考文献
2. Kubovich, Yaniv, Harel, Amos. Israel Says Downed Iranian Drone Was Armed and Heading for Attack. Haaretz. (オンライン)2018年4月13日.(引用日:2019年4月17日.) https://www.haaretz.com/israel-news/israel-says-downed-iranian-drone-wasarmed-and-heading-for-attack-1.5995243.
18. United States Government Accountability Office. Air Force Actions Needed to Strengthen Management of Unmanned Aerial System Pilots. Washington, D.C. : United States Government Accountability Office, 2014. GAO-14-316.
34. Ingold, Benjamin. 25th Attack Group activated at Shaw. Shaw Air Force Base.(オンライン)2018年10月4日.(引用日:2019年4月18日.) https://www.shaw.af.mil/News/Article-Display/Article/1654242/25th-attack-group-activated-at-shaw/.
35. Mount, Mike, Quijano, Elaine. Iraqi insurgents hacked Predator drone feeds, U.S. official indicates. CNN. (オンライン)CNN, 2009年12月18日.(引用日:2019年4月17日.) http://edition.cnn.com/2009/US/12/17/drone.video.hacked/.
36. グロスマン , デーヴ . 戦争における「人殺し」の心理学 .(訳) 安原和見 . 東京都 : 原書房 , 2004.
37. ルメイ, カーチス・E, イェーン, ビル. 超・空の要塞 : B-29. (訳) 渡辺洋二. 東京都 : 朝日ソノラマ, 1991. ページ:205-206.
38. Walton, Bill. Operation Meetinghouse: LeMay Takes Charge And The B-29s Bore In Low. Avgeekery.com. (オンライン)2017年.(引用日:2019年3月22日.) https://www.avgeekery.com/operation-meetinghouse-lemay-takes-charge-and-the-b-29s-bore-in-low/.
39. Moore, Don. Facing death in a B-29 while bombing Japan in WWII. War Tales.(オンライン)2012年4月2日.(引用日:2019年3月22日.) https://donmooreswartales.com/2012/04/02/james-hussmann/.
40. マーシャル , チェスター. B-29日本爆撃30回の実録.(訳) 高木晃治 . 2001.
41. 警察庁. 平成30年中の交通事故死者数について. 警察庁.(オンライン) 警察庁, 2019年1月4日.(引用日:2019年4月14日.) https://www.npa.go.jp/news/release/2019/20190104jiko.html.
42. Military Wiki. List of combat losses of United States military aircraft since the Vietnam War. Military Wiki.(オンライン)(引用日:2019年4月15日.) https://military.wikia.org/wiki/List_of_combat_losses_of_United_States_military_aircraft_since_the_Vietnam_War.
43. Bergeron, Randy G. Desert Shield / Desert Storm: Air Force Special Operations Command In The Gulf War. Hurlburt : 発行元不明, 2001. ページ: 99-100.
44. Miller, Marleah. Hurlburt honors Spirit 03 crew for 25th anniversary. Hurlburt Field.(オンライン)2016年2月2日.(引用日:2019年4月15日.) https://www.hurlburt.af.mil/News/Article-Display/Article/648796/hurlburt-honors-spirit-03-crew-for-25th-anniversary/.
45. DeBruyne, Nese F. American War and Military Operations Casualties: Lists and Statistics. 出版地不明 : Congressional Research Service, 2018. RL32492.