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無人航空機と変容する兵士像(5)
小沢知裕(2019.7.15:CISTEC Journal 5月号掲載[2019.6.13])



無人機攻撃のストレスを分析する


1. 無人機攻撃という協同作業

 さて、前節で挙げた3つの要素のうち、まずは、集団免責を見ていこう。これは、集団で戦闘を行うことによってもたらされる責任の分散を指している。そして、これの実現には、集団が持つ、「匿名性」を生み出す効果が必須とされている。更に、集団にはこの匿名性とは別に、もうひとつの効果があるという。それが「義務」である。「戦闘中の集団内では、この義務(仲間に対する)と匿名性(殺人に個人的に責任を負うという感覚が低下する)とが結びつき、殺人を可能にするうえで重要な役割を果たしている36 p.257。」これを実現するためには攻撃が複数名によって行われている必要があるが、無人機ではどうだろうか。

 MQ-1プレデターやMQ-9リーパーは、第3回第2節でも述べた通り、基地に備えつけられたコンテナ(車輪が付いていてトレーラーで移動ができる)内から行われる。コンテナ内に据え付けられた機器類の操作は、二名のオペレーターによる役割分担によって行われる。二人のうち、操縦する者は有人機と同様にパイロット(pilot)と呼ばれ、センサーを操り補佐する者はセンサーオペレーター(SO : sensor operator)と呼ばれる。そして、必要に応じて、複数名の作戦情報コーディネータ(MIC : mission intelligence coordinator)が直接、あるいは他の基地からテキスト・チャットで参加して補佐する。パイロットとセンサーオペレーターだけでなく、作戦情報コーディネータも含めて無人機オペレーター(RPA operators)と呼ばれる場合がある50 p. 1

 無人機の一つの「軌道」(CAP : Combat Air Patrol と呼ばれ、無人機4機で運用される)を24時間運用するために、米空軍としては10名の人員を求めており、最小運用人員は8.5名だとしている。パイロットとセンサーオペレーターの計二名を半日で交替させる訳であるから、一日の運用に必要な人員はこの二つのポジションだけで、最低限4名が必要となる。作戦情報コーディネータは、空軍がいう運用人員の残りの4.5~6名に含まれることになる。また、ある空軍司令官の語るところによると、オペレーター以外に、無人機の1時間の飛行につき、数百人時(man-hour:1百人時は一人が1時間になす仕事量)の工数が必要だという。それは主として、収集された情報の加工、利用と報告に要されるが、作戦の推進、機器のメンテナンスなどにも工数は掛かる51。このことから、上記、4.5~6名の人員のうち、全てではなくとも、多くは作戦情報コーディネータであることが想像される。オペレーターと同じコンテナの中、もしくはネットワークを介して、情報を処理するために、数名の人員が作戦に関わっているのである。


2. 無人機攻撃における集団免責効果

 このような多くの参加者がいる中であれば、例えトリガーを引く立場にある者がパイロット一人であっても、「集団への義務」と「匿名性」が実現される。リアルタイムに攻撃対象を映すその画像を見ているのは自分一人ではなく、その攻撃の是非の判断も、複数名いる作戦情報コーディネータの分析を踏まえたチームでの作業結果である。攻撃を決めたのは決して自分一人ではないし、またそれ故に、理由もなく中止はできない。第二次世界大戦中は、一人ひとりが銃を撃つライフル銃手は15~20%しか発砲しなかったのに対し、組扱いの武器(機関銃など)では100%近くが発砲していたという。古代の戦車(チャリオット:馬車で牽いた車に御者と射手の二名が乗る)が長く戦場を支配したのも、この心理的な理由によるものだというのが、グロスマンの分析である36 p.258-259

 しかし、無人機による攻撃の場合、銃殺隊とは異なり、自分の放った弾が致命傷を与えたかどうか疑う余地は残らない。銃殺隊などでは、複数名で同時に撃ち、目隠しをした人を対象としていた。一人ひとりが、自分の弾は当たらなかったかもしれないと思うことができた。しかし、無人機攻撃においては「殺したのは自分じゃないかもしれない」と思う余地は全くない。無人機パイロットたちには精神的逃げ場が少ないのである。こう考えると、無人機攻撃が集団によるものであることは、兵士に確実に発砲させるという強制力の意味では効果は高いが、兵士の精神を守るという意味では効果が薄いことがわかる。


3. 機械の介在とはなにか

 次に第2の要素である、機械の介在を考えたい。オペレーターは、衛星画像というモニター越しの映像によってターゲットの観察を行い、判断し、攻撃する。その画像は、データの送られてくる長い経路(と恐らくは暗号化、復号化の処理)の関係から1秒以上遅れたものになるという。この環境を文字通りに考えるなら、間違いなく機械の介在がある。グロスマンは機械の介在の説明として「手の汚れない〈テレビゲーム〉殺人の非現実感のこと」とし、「テレビ画面、熱線映像装置、暗視装置などの機械的な緩衝物が介在することによって、犠牲者が人間だということを忘れることができる」としている36 p. 268

 元海兵隊員で、自らの従軍記者の経験の中でPTSDを患ったことのあるデイヴィッド・モリス(David Morris)は、無人機オペレーターがPTSDになると聞いて、初めは懐疑的だったという。自らの経験でいえば、テレビ画像でイラク人が足を失うのをリアルタイムで見ても、他のことならともかく、それについて悪夢を見ることはなかったと語っている。しかし、モリスはまた、無人機オペレーターが人を殺した時に、実際にどのような心理的経験をしているか覗き込んだ人は誰もいないし、それが、伝統的に定義された戦闘と同じものともいえないのではないかと問題提起してもいる52。テレビ画面を介した殺人がどのような心理的影響をもたらすのかは、未知の領域なのである。

 あるイスラエルの戦車砲手は照準器を通して見る映像を、テレビ画像のようだったと語った。「全てが、まるでテレビ画面の中で起こっているようだった」という。「誰かが走り、俺がそれを撃つ。そいつは倒れる。その全てがまるでテレビに映った何かのようなんだ。人を見ることはない。そこが、あれのいいところだな36 p. 282, 53。」


4. 不十分な機械の介在

 無人機攻撃の場合も、テレビ画面を介することによって、実際に見るよりは現実感が減じられているかもしれない。先述のモリスの場合は、テレビ画面を介することによって、実際に見るより格段にストレスを感じなかったという感想であった。もっとも、このときは、自らトリガーを引いていた訳ではないので、完全に比較できるものではない。また、グロスマンがこれらの議論をした20世紀末と比べ、現代は、映像の品質が大きく向上していることも無視できない。無人機による映像は、光学的な映像も、暗視カメラの映像も、非常に鮮明になっているという。

 MQ-1プレデター(図3)やMQ-9リーパーといった半日~1日間の飛行が可能な無人機は、パイロットを12時間毎に交代させることによって、長時間に亘り飛び続ける。標的殺害を恐れて、なかなか見えるところに出てこない監視対象を待って、いつまでも空の上を8の時や六角形の航路を描いて回り続けているのである。この退屈な飛行の操縦は、緯度、経度、高度、風速、標高、近くの航空機情報などといったものを示す数字のみの表示を見て行われるという。これを経験したパイロットの一人は、(以前従事していた)潜水艦内勤務に戻ったようだったと述懐している54


図3. MQ-1プレデター。米ワシントンD.C.、スミソニアン国立航空宇宙博物館にて筆者撮影
 操縦が数字で行われるのであれば、カメラは何に使われるのだろう。無人機に装着された高機能カメラが唯一、捉え続けるものは、監視対象の拡大映像なのである54。監視対象は、必要が認められれば、攻撃対象となる。そして、このカメラは、攻撃対象を攻撃する前はもちろん、攻撃後も捉え続けることができる。攻撃者は命中に至る一部始終を見、そして「それはとても鮮明で、まさに眼前に展開される個人的な体験」であり、それ故に攻撃者の心から離れないのだと、ある米空軍将校は説明する。そして、攻撃結果を分析するため、攻撃後も飛行と観察を続けることが度々あるという47。攻撃の結果を全く見ない有人機の攻撃とは大きく異なり、無人機の攻撃では、自分のなした結果をつぶさに観察することになるのである。

 米軍の無人機オペレーターの心理状態を調査したレポートによると、現代の技術によって、高精細のデジタル・メディアを介した、リアルタイムでの直接的な観察や、陸上部隊とのやり取りが可能になったとされている。そして、彼らの任務には、画像を用いて攻撃後の被害状況を検査することが含まれ、死や重傷をもたらす意思決定をしたり、米兵や同盟国兵士の死や、予期せぬコラテラル・ダメージ(付帯被害:一般市民の死や、同士討ちなど)を目撃したりすることが常態化しているとして、PTSDの増加が懸念されている55 p.480

 このような現代の無人攻撃機オペレーターの置かれた状況は、落とした爆弾の被害を知ることなく太平洋上空を飛んでいたリンドバーグとは、全く異なるものといえる。技術向上の結果、機械の介在による攻撃者の精神的防護は弱くなっているのである。無人機による攻撃も、確かに空爆には違いないが、無人機においては、グロスマンが太平洋戦争やベトナム戦争の実態を前提に想定したほど、攻撃者のストレスを軽減しないのである。


5. 無人機攻撃における物理的距離

 最後に物理的距離の問題を検討したい。グロスマンは、物理的距離が精神的負担を軽減する効果の具体例として、爆撃による殺人の心理的効果を紹介している。「爆撃の死は、距離というきわめて重要な要因によってやわらげられている」とし、「爆撃は非対人的な戦争行為であり、特定の個人の死を意図したものでないという意味で自然災害に近い」とまでいっている36 p.192-193。こうして見ると、物理的距離による精神的負担の軽減は、無人攻撃機による標的殺害には当てはまらないことがわかる。標的殺害は、常に、明確に個人の死を意図して行う。CIA の対テロセンター長が策定した、殺害すべきテロリストとみなした人名リストに従うなどして行われるものである56

 以上見てきたように、グロスマンが論じる最大距離の攻撃に相当するはずの無人機攻撃であるが、その心理的防護効果の根拠となる3つの要因、集団免責、機械の介在、物理的距離のうち、集団免責は有効であるが、精神的ストレスを減じる効果は限定的であると思われる。そして、残り2要素とも、想定されている効果が十分に発揮されないであろうことがわかる。無人機オペレーターは、無人攻撃機の使用によって、トリガーを引く(殺人を行う)ことが実現しやすくはなっているが、殺人の重圧という精神的被害からはあまり守られていないのである。

                                  (つづく



参考文献
36. グロスマン , デーヴ . 戦争における「人殺し」の心理学 .( 訳) 安原和見 . 東京都 : 原書房 , 2004.
47. Lindlaw, Scott. Remote-control warriors suffer battle stress at a distance. boston.com.(オンライン)2008年8月8日.(引用日:2019年3月28日.) http://archive.boston.com/news/nation/articles/2008/08/08/remote_control_warriors_suffer_battle_stress_at_a_distance/.
50. Chappelle, Wayne, ほか, ほか. Prevalence of High Emotional Distress and Symptoms of Post-Traumatic Stress Disorder in U.S. Air Force Active Duty Remotely Piloted Aircraft Operators (2010 USAFSAM Survey Results). Defense Technical Information Center.(オンライン)2012年12月.(引用日:2019年3月19日.) https://apps.dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/a577055.pdf.
51. Majumdar, Dave. Exclusive: U.S. Drone Fleet at 􏌾Breaking Point,’ Air Force Says. the Daily Beast.(オンライン)2015年1月4日.(引用日:2019年4月2日.) https://www.thedailybeast.com/exclusive-us-drone-fleet-at-breaking-point-air-force-says.
52. National Public Radio. Can Drone Pilots Be Diagnosed With Post-Traumatic Stress Disorder? National Public Radio.(オンライン)2015年6月6日.(引用日:2019年4月4日.) https://www.npr.org/2015/06/06/412525635/can-drone-pilots-bediagnosed-with-post-traumatic-stress-disorder.
53. Holmes, Richard. Acts of War : Behavior of Men in Battle. 1989. ページ: 157.
54. Kaplan, Robert D. Hunting the Taliban in Las Vegas. the Atlantic.(オンライン) 2006年9月.(引用日:2019年3月19日.) https://www.theatlantic.com/magazine/archive/2006/09/hunting-the-taliban-in-las-vegas/305116/.
55. Chappelle, Wayne, ほか, ほか. An analysis of post-traumatic stress symptoms in United States Air Force drone operators.Journal of Anxiety Disorders. 2014 年, ページ: 480-487.
56. 杉本宏. ターゲテッド・キリング―標的殺害とアメリカの苦悩. 東京都 : 現代書館, 2018. ページ: 107.