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無人航空機と変容する兵士像(7)
小沢知裕(2019.7.17:CISTEC Journal 5月号掲載[2019.6.13])



遠隔操作がもたらす兵士の変質


1. 受け入れがたいPTSD 発生率の「低さ」

 第4回第2節でも少し触れたが、無人攻撃機の(遠隔)パイロットたちの心理的負担に関しては、米国で繰り返し研究がなされている(表6)。無人機オペレーターにおいては、果たして、有人機パイロットと比べて、PTSDの発生率は高いのだろうか。臨床心理学者シャペルは、2012年に670人のMQ-1プレデター及びMQ-9リーパーのオペレーターを対象として、PTSD症状の発生状況を調べている。この研究でPTSDを発症している可能性の高い者の比率は、有人機飛行士が2%であるのに比べて、無人機オペレーターが5%と、高くなっていると見積もられた。しかし、シャペルは、その2年後、更に別の尺度を用いて分析を行っている。このときは、対象者を更に増やし、1,000人超の無人機オペレーターを対象に調べた結果、4.3%という数字を算出している。これは、帰還兵全体に見られる PTSD発生率である4~18%の中で見ると低い方の数字となる55。無人機オペレーターには、高解像度のリアルタイムの戦場の悲惨さを目撃することが精神的負担となるのではないかという意見は、各種レポートや報道に散見されるが、このような懸念は、シャペルの論文にも登場してくる。これが原因となってPTSDの発症が高まるのではないかという、同博士の懸念が伝わってくる。しかし、得られた結果は想定に反して、PTSDの発症率は比較的「低い」というものだったのである。

 このような研究自体、数が少ないが、それは、無人機オペレーターが国家機密に守られ、研究者による接触が限定的であることから来ているようだ55 p.481。また、2014年の研究に関しては、アンケートに回答した無人機オペレーターが、回答内容を上司に漏らされることや、その結果、評価に悪影響を与えられることを懸念した可能性があるとして、シャペルは、自らの分析結果に懐疑的な様子である55 p.485-486。このような同博士の態度には、米軍が抱える無人機オペレーターの不足と、その背景の一つにある大量の離職者いう、所与の問題への認識が影響しているのかもしれない。無人機オペレーターたちがストレスを強く感じており、家庭内で不和が生じたり、自らを終身刑の服役者に例えたりするなど、自虐的になっているという話はある。

表6. 米無人機オペレーターの心理的負担の調査(再掲)
時期 論者 論旨
2006年 Tvaryanas、トンプソン他 2005年に28名の無人機クルーを対象に調査を行った。交替勤務に従事する無人機MQ-1プレデターのオペレーターに、気分の落ち込み、生活の質の低下、倦怠感の増大、極度の感情的疲労、燃え尽き症候群が見られた。また、業務に関連した中~高度の「退屈」が訴えられている59
2008年 Tvaryanas、プラット他 2006年12月に、MQ-1プレデターオペレーター66名を対象に調査した結果、交替勤務制度の見直しによってオペレーターの心理的問題に改善は見らなかった。従って、必要なのは人員不足の解消である60
2011年 シャペル、サリナス 600名のMQ-1、MQ-9オペレーター、264名のMQ-4グローバルホークオペレーター、及び無人機をサポートする非戦闘空軍兵(指揮官、サポート、物流など)600名に調査を行った。その結果、非戦闘空軍兵に比べ、無人機オペレーターには燃え尽き症候群の発生が顕著であることが分かった。また、その理由は長時間労働や人員不足、キャリアへの不安などにあるとわかった61
2012年 シャペル、マクドナルド 2010~2011年に掛けて、670名のMQ-1プレデター、MQ-9リーパーのオペレーターを含む空軍飛行士を対象に調査を行った。PTSDを発症している可能性の高い者の比率は、無人機オペレーターは5%と、有人機飛行士の2%に比べて高かった50
2013年 オットー、ウェバー 無人機パイロットは、同時期にイラクやアフガニスタンに派遣されたその他の(有人)空軍パイロットと同程度の比率で精神疾患と診断されている62
2014年 シャペル、グッドマン他 MQ-1プレデター、MQ-9リーパーのオペレーター1,084名を対象にPTSD症状の調査を行った。対象者のうち4.34%が中~高程度の危険性と診断された。これは、帰還兵のPTSD発症率(4~18%)の中では低い値となる55


2. 負担の重さと壮大な期待

 無人機オペレーターのストレスには、単純に、週6日、13~14時間勤務という、業務そのものの負担の重さが影響しているという意見も多い。政府説明責任局(GAO)からは空軍(及び陸軍)に対し、繰り返し人事戦略を改善するように指導が入っている(表7)。取り急ぎ、人員増がひとつの特効薬とみなされて推進されているようである。

表7. 米無人機オペレーターの労働条件に対するGAOの指摘
時期 文書番号 論旨 
2014年4月 GAO-14-316 空軍の無人機パイロットが不足している。空軍には、これを補うための戦略的な人材計画が求められる。そのためには、無人機パイロットの生活品質の低下や、昇進率の低さへの対応などが必要である18
2015年5月 GAO-15-461 陸軍と空軍の無人機パイロットの訓練が不足している。特にある陸軍の部隊では、殆どのパイロットが基礎訓練さえ完了していなかった63
2017年1月 GAO-17-53 空軍と陸軍は無人機パイロットを補うための戦略的な人材計画が不十分である。空軍は無人機パイロットの不足を有人機パイロットで一時的に補っているが、永続的な無人機パイロットを増員しなければならない。陸軍は無人機パイロットの訓練不足への対応が必要である64
2019年2月 GAO-19-155 空軍における無人機パイロットの昇進率は2013年以降、向上している。残された空軍の課題は、無人機飛行士の技能を必要とするパイロット以外のポジションを見直すことである19

 しかし、人も増えるが仕事も増えるようだ。米軍は無人機の軍事利用に大きく期待を掛けており、2047年までにはスウォーム(大量の無人機の同時使用)や、ミサイル防衛、全地球的攻撃、戦略攻撃、人道支援作戦、迎撃、自動迎撃などといった幅広い用途を無人機によって実現することを計画している(図5~7)65

図5. 米空軍の計画に示された中規模無人機システムの将来像

図6. 米空軍の計画に示された大規模無人機システムの将来像

図7. 米空軍の計画に示された無人機全自動化の将来像


3. 殺人の「合理化」が難しい

 見てきたように、無人機攻撃において、殺人を行ったことからくる精神的負担に対する防護はかなり限定的である。また、無人機オペレーターは「死ぬかもしれない」というストレス要因から完全に開放されているが、同時に「死ぬかもしれない」が故に自らの殺人を正当化しやすい、という精神的防護が外されてもいる。こう考えると、いくつかの側面においては、実際に戦場へ送られる兵士以上に精神的負担が重くなっていることがわかる。

 また、グロスマンは、殺人後に発生した自責と罪悪感は、その後も完全に捨て去ることはできず、生涯を通して折り合いをつけていかなければならないのだと語っている。この精神的負担は合理化(殺人の正当化)と受容というプロセスによって乗り越えられていくものらしい36 p.372-378。このプロセスに失敗した場合、PTSD の発症のみならず自殺さえも考えられるというから、兵士にとっては死活問題といってよい。そして、このプロセスの伝統的な例としては、上級者の賞賛や、親しい戦友たちとの交流、凱旋パレードなどが挙げられる36 p.405-08

 無人機オペレーターの業務は米国内基地でのシフト勤務である関係で、戦地の兵士たちとは異なり、同僚たちとの交流が限定的なようである。また、無人機で標的殺害を行った場合、その結果は高度な機密として扱われるため、これをもてはやして、凱旋パレードという訳にもいかない。それどころか、自宅で朝食時の話題にすることさえできないという。彼らが英雄視されるのは、地上軍を上空からサポートして、自軍や友軍の兵士の命を救ったときであろう。2001年のMQ-1プレデターの武装化以来、無人機オペレーターの軍の中での地位が向上したという話もある17

 このように、伝統的な合理化プロセスの多くを得る機会を持たない分、無人機オペレーターの精神的な負担が重くなるであろうことが想像できる。殺人を行ったことによる精神的負担に関して、無人機オペレーターも、戦地に配備された兵士たちと同様、精神面におけるケアが必要ということであろう。米国ではこのケアの必要性に、人員確保の要求や離職率の高さから注目がされ、研究が進められているように見える。引き続き、強い問題意識の下、研究が進められていくことだろう。


4. 変容する兵士像

 それでは、国家にとって、この無人機オペレーターの精神的負担の問題は何を意味するだろうか。確かに兵士のPTSDの発症は、戦死や戦傷と同様に、国としては政治的にも金銭的にもコストが掛かる出来事であろう66。しかし、帰還兵に比べて、無人機オペレーターのPTSD発症率が格別には高くないかもしれないという2014年のシャペルの研究結果が出ている。この結果は、有人機パイロットや現地の兵士などと比較し、無人機オペレーターの方が、死傷者が出ない分だけ、国家としてはコストが掛からない兵士なのだという損得勘定を補強している。従って、前節でその必要性を述べた無人機オペレーターの精神的ケアが実現されるかどうかにかかわらず、戦争における無人機攻撃への依存へ歯止めは掛からないだろう。戦地からの要望だけではなく、コスト的なメリットを考えても、無人機オペレーターとして戦争に参加する兵士たちが増やされていく公算が高いのである。今後、増え続ける無人機オペレーターたちが軍隊内での人口比率を高め、存在感を強めていくことになるだろう。

 無人機オペレーターは、殺人の精神的負担を被(こうむ)りながら、その合理化が困難であるという特殊な兵士である。そして、作戦の機密性や、命の危険を伴わない仕事の性質から、表立って名誉が与えられない傾向が強いという意味でも特殊である。このような新種の兵士たちが増えていくことが、あるいは米空軍のメンタリティーを変えていくかもしれないと筆者は想像している。技術の普及によって、今後、このような兵士が各国で増えていく可能性もある。現在、米空軍で観察されている以上のような兵士の変質を、戦争の将来像を占う事象と見ておくべきだろう。(了)



参考文献
17. Shachtman, Noah. Attack of the Drones. Wired.(オンライン) 2005年6月1日 .(引用日:2019年4 月18 日.) https://www.wired.com/2005/06/drones/.
18. United States Government Accountability Office. Air Force Actions Needed to Strengthen Management of Unmanned Aerial System Pilots. Washington, D.C. : United States Government Accountability Office, 2014. GAO-14-316.
19. ―. Unmanned Aerial Systems Air Force Pilot Promotion Rates Have Increased but Oversight Process of Some Positions Could Be Enhanced. Washington, D.C. : United States Government Accountability Office, 2019. GAO-19-155.
36. グロスマン , デーヴ . 戦争における「人殺し」の心理学 .(訳) 安原和見 . 東京都 : 原書房 , 2004.
50. Chappelle, Wayne, ほか, ほか. Prevalence of High Emotional Distress and Symptoms of Post-Traumatic Stress Disorder in U.S. Air Force Active Duty Remotely Piloted Aircraft Operators (2010 USAFSAM Survey Results). Defense Technical Information Center.(オンライン)2012年12月.(引用日:2019年3月19日.) https://apps.dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/a577055.pdf.
55. Chappelle, Wayne, ほか, ほか. An analysis of post-traumatic stress symptoms in United States Air Force drone operators.Journal of Anxiety Disorders. 2014年, ページ: 480-487.
59. Tvaryanas, Anthony P., ほか, ほか. Effects of Shift Work and Sustained Operations: Operator Performance in Remotely Piloted Aircraft(OP-REPAIR). San Antonio : United States Air Force 311th Human System Wing, 2006.
60. Tvaryanas, Anthony P., ほか, ほか. A Resurvey of Shift Work-Related Fatigue in MQ-1 Predator Unmanned Aircraft System Crewmembers. Brooks City-Base : Naval Postgraduate School, 2008.
61. Chappelle, Wayne, Salinas, Amber , McDonaldKent. Psychological Health Screening of Remotely Piloted Aircraft (RPA)Operators and Supporting Units. Proceedings of the North Atlantic Treaty Organization Research and Technology Symposium: Mental Health and Well-Being Across the Military Spectrum. 2011年4 月10-15日.
62. Otto, Jean L., Webber, Bryant J. Mental health diagnoses and counseling among pilots of remotely piloted aircraft in the United States Air Force. Medical Surveillance Monthly Report. 2013年, 第20巻, 3, ページ: 3-8.
63. United States Government Accountability Office. UNMANNED AERIAL SYSTEMS: Actions Needed to Improve DOD Pilot Training. Washington, D.C. : United States Government Accountability Office, 2015. GAO-15-461.
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https://wired.jp/2008/08/22/%E3%80%8C%E5%9C%B0%E7%90%83%E3%81%AE%E8%A3%8F%E5%81%B4%E3%81%8B%E3%82%89%E7%84%A1%E4%BA%BA%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F%E3%81%A7%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%92%E7%99%BA%E5%B0%84%E3%81%99/
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