無人航空機と変容する兵士像(6)

CISTEC Journal 5月号掲載[2019.6.13]

死者なき戦争は幻想か

1. 国家は戦死者を出したくない

 戦死者を出す懸念のない攻撃方法は、為政者にとっては魅力的だろう。2008年、バラク・オバマは、イラクからの撤退や、イランとの国交正常化を公約として大統領選に当選した。しかし、その就任後、先代のジョージ・W・ブッシュ大統領の時代に始まった無人機による攻撃を本格化させたのも、同じ、オバマ大統領であった。軍の撤退と、無人機攻撃の活発化の共通点は、米国民に戦死者を出さないところである。

 ところで、米国の首都ワシントンD.C.を訪ねると、その街のど真ん中、ワシントン記念塔のすぐ隣に、気持ちの良い人工の池と、その周りを囲む、第二次世界大戦記念碑を見ることができる。その一角にある碑文にはこうある

彼らは子息を兵役に差し出した。彼らは炉を燃やし、工場の車輪を急がせた。彼らは飛行機を作り、戦車を溶接した。船に鋲を打ち、船殻を均(なら)した。(図4)

 第二次世界大戦の開戦から終戦間際に掛けて大統領を務めたフランクリン・D・ルーズベルトの言葉である。これは、1942年9月5日、労働者の日に行われた、銃後の労働者たちを称える演説からの抜粋だが、戦地に子息を送り出した母親や父親への気遣いが見られる57。国民から戦死者を出すということは、今も昔も、為政者にとっては大きな負担なのである。

図4. 戦場に子息を送り出す銃後の労働者たちの愛国心を称える碑文。
米ワシントンD.C.、第二次世界大戦記念碑にて、筆者撮影

2. 空爆だけでは勝てないという認識

 前出のヘイデン元CIA長官は、攻撃的な無人機の使用を効果的な手段と認識して、2008年初頭から積極的に進言していた。しかしヘイデンは同時に、無人機による攻撃の限界にも気づいていた人物であった。「無人機による攻撃は戦術的なものであり、戦況全体を変えることにはならない」というものがヘイデンの認識であった。そして、当時行われていたアルカーイダ撃滅作戦において、「戦略的勝利をものにするには、米軍が地上の趨勢を変えるしかないということを承知」していた58

 具体的なケースで言えば、例えば、シリアの内戦において、米国は有志連合を組織し、地上軍の投入(英語でboots on the groundという)を避けて、専ら空爆のみを行ってきた。しかし、それだけでは効果が限定的であることを認識して、アサド政権やIS(「イスラーム国」)と敵対する武装組織からなる「穏健な反体制派」や、シリア北部を拠点とするクルド勢力、人民防衛隊(YPG)を、いわば地上部隊の代行として支援することにした。国民に不人気な、米兵の死者がどうしても出る地上戦を避け、その戦力を自国民以外から出すという選択肢を見つけたのである。これは、地上戦力なしに勝利は得られないという認識の裏返しでもあった。

 無人機による攻撃は、自国民に全く死者を出さずに行えるという意味で、為政者にとっては魅力的な選択肢である。為政者にとって、攻撃に踏み切るハードルは大きく下がることになるだろう。シリアの場合のように、他国の勢力が地上で命を張ってくれるなら、自国民に戦地を踏ませない戦争が可能という予想も成り立つだろう。しかし、一度戦争が始まってしまうと、それがその後、どう変化していくかは予想がつかない。地上の兵力を他者に任せるということは、戦況の大きな部分を委ねることになる。そして、その後に控える危険性は、敗退や自国民による地上軍の投入なのである。無人機攻撃という気軽な入り口が、結局、自国民による地上軍の投入につながりかねないという認識を持つ必要がある。

つづく

参考文献

57. Roosevelt, Franklin D. Public Papers of the Presidents of the United States: F.D. Roosevelt, 1942 Volume 11. 1942. ページ:354-355.
58. ウッドワード , ボブ . オバマの戦争.(訳) 伏見威蕃. 東京都 : 日本経済新聞出版社, 2011. ページ : 47.

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