無人航空機と変容する兵士像(1)

CISTEC Journal 5月号掲載[2019.6.13]

無人機の戦争が始まった

1.  無人機という戦争の新しい主役

 無人機(あるいは無人航空機、ドローン)による戦闘行為の報道が相次いでいる。今年(2019年)1月、イエメン政権側の空軍基地へ無人機による攻撃があり、6名の兵士が死亡し、報道関係者を含む、少なくとも12名が負傷した1。また、昨年(2018年)2月には、シリア領内からイスラエル国内へと侵入してきた無人機を、イスラエル空軍のアパッチ攻撃ヘリが撃ち落としている。イスラエルはこの無人機をイランのものと断定し、爆発物が積まれ、イスラエル国内への攻撃に向かうところであったとした2。この無人機は、2011年にイランが鹵獲(ろかく)した米軍の無人偵察機RQ-170センチネルのコピーと見られている3。この侵入に対して、イスラエルは、シリア領内のイラン軍基地を含む12箇所を報復攻撃している4

 無人機による攻撃はシリア領内でも頻発しており、多くの報道がされている。シリア領内のロシア空軍基地の中枢であるフマイミーム基地を主たるターゲットとして、2017年末から、無人機による執拗な攻撃が行われてきている。このとき使用された無人機は芝刈り機のエンジンを使用した有翼機で、小さな爆弾を10個ぶら下げていた5。これらの攻撃は、翌2018年9月に、同基地のあるラタキア県に隣接するイドリブ県にあったアルカーイダ系組織の無人機発射台をロシア機が破壊して以降は頻度が下がっており、散発的になっている6。しかし、それまでに、ざっと数えただけでも20回以上の攻撃が行われている。

【シリア領内ロシア軍基地への無人機攻撃と関連する事件】

 2017年12月31日フマイミーム空軍基地に対し、民兵組織による砲撃が行われた。これに続いて複数機の無人機による攻撃が行われた。砲撃によって2名の死者がでている。また、航空機の被害もあったとされる。 
 2018年1月5~6日フマイミーム空軍基地とタルトゥース海軍補給基地に同時に無人機攻撃が仕掛けられる。使用された機体は13機と見られる。
 2018年4月24日フマイミーム空軍基地に接近する2機の武装した小型無人機が発見され、防空システムによって破壊された。基地に被害はなかったとされている7
 2018年5月21日フマイミーム空軍基地に接近する無人機1機が発見され、同基地の防空システムによって破壊された8
 2018年7月7月中に少なくとも13回の無人機攻撃がフマイミーム基地に対して行われる9
2018年8月7日 未明、シャイラット空軍基地に初の無人機攻撃が仕掛けられる。被害は報告されていない。 
2018年8月13日 フマイミーム空軍基地に接近する5機の無人機が破壊される。同基地を狙った同月の無人機攻撃はこれで 5日連続となる10。 
2018年8月21日 ジャブラ地区(フマイミーム基地南方数キロ)で無人機攻撃による複数の爆発が確認される。無人機の内1 機はロシア軍に空中で破壊された。ロシア側の被害は確認されていない9。 
2018年9月4日 ロシア軍はシリア北西部イドリブ県で大規模な空爆を行った11。ロシア国防省によれば、攻撃対象とされたのはアルカーイダ系組織で、シリアのロシア軍基地を狙う無人機発射台や武器庫を対象に含むものだという6。 
2018年9月21日 ラタキア県(フマイミーム空軍基地がある県)で1機の無人機が撃墜されたと報道される。同機の飛来は砲撃を伴ったが、この砲撃によってシリア兵8名が負傷した12。 
2018年9月23日 ラタキア県北部で無人機が撃墜される。同機はフマイミーム空軍基地を繰り返し攻撃したものと同型で、イドリブ県東部から飛来したものと見られている13。 
2018年11月 ジャブラ地区で大規模な爆発が観測される。フマイミーム基地上空で無人機が撃墜されたものと見られている14。 
2019年1月27日 3機の無人機がシリア内のロシア空軍基地へ迫ったが、シリアの防空システムに撃墜された15。 

 このように、無人機による攻撃は、近年、国家だけでなく、非国家主体である武装組織によっても、繰り返し行われている。ちなみに、これらの機体は「無人」機と呼ばれてはいるが、人が全く関与していないわけではない。確かに、無人機そのものに人は乗っていないが、専ら、どこか遠隔地から人によって操作されている。これを踏まえて、米空軍などではUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)やUAS(Unmanned Aerial System:無人航空システム)などの呼び方以上に、RPA(Remote Piloted Aircraft:遠隔操縦航空機)という呼び方が好まれているようだ。

2. 無人機の需要とパイロットの不足

 無人機による攻撃を、最も多く、大規模に展開しているのは軍事超大国たる米国である。特に大規模に使用されている場所はアフガニスタンである。2001年のこと、米軍を主体とする有志連合諸国によるアフガニスタンへの侵攻が始まった。この現在(2019年4月)までも尾を引き続けている戦いでは、米国による無人機攻撃が最も大規模に行われてきている16。このアフガニスタン紛争のきっかけとなった同時多発テロ事件の翌年の時点、2002年には、米軍によって運用される無人機は100機以下しかなかったという。しかし、その3年後、2005年には 1,200機まで増え、2007年には戦場の要求に人員補充が本格的に追いつかなくなった17。このころから、無人機オペレーター(操作者)たちの業務の負荷は深刻になってきたようだ18 p.1。しかし、現場からの要求は留まることを知らなかった。無人機によって実現される、途切れることなく行われる監視は、戦場の情報収集に有効であり、前線の兵士の活動を格段に安全にするからであった。2009年には、無人機への期待を込めた長期計画を空軍が発表している。そこには、2047年度までに、幅広い作戦において、無人機に依存することが示されている(第7回第2節で詳述)。

 このような状況を受けて、パイロットの補充は急速に行われた。無人機戦力強化の計画が発表された翌2010年に空軍は、それまで、無人機パイロットの人材を有人機操縦の資格を持った将校のみに頼ってきた方針を変更し、無資格の将校にも門戸を開放した。米空軍の無人機パイロットは2008年時点では約400名であったが、2013年には1,366名、2018年には2,404名まで増員している。10年で6倍という大増員が実現された。なお、米軍では陸海空・海兵隊の各軍で無人機を運用しているが、MQ-1プレデターやMQ-9リーパーといった、ミサイルによって地上攻撃ができる無人機や、高空からの監視を行うMQ-4グローバルホークの運用は、その多くを空軍が行っている18, 19

3. 日本にとっても他人事ではない

 このような戦争の変化は、一体、我々の生活にどのような変化をもたらすだろうか。それは、国家と非国家主体の戦争だけでなく、国家と国家の戦争や、外交の有り様にも変化を与えるだろうか。直接的な戦争を70年以上に亘って経験していない日本もまた、近隣諸国との間に領土問題を抱える軍事大国である以上、この問題と決して無縁とはいえない。日本はグローバル・ファイアパワーというウェブサイトで2019年時点の軍事力ランキングを6位とされている20。同サイトでは、137ヶ国を対象として、資源や財政、地政学的条件の他、55種の指標を用いて、通常兵器による潜在的戦争遂行能力を分析している。実際に防衛省では、偵察機としてではあるが、米国製の無人機RQ-4グローバルホークの導入を進めており、3機の納入が2019年度末に予定されている21, 22

 また、米国や英国などが、「テロリスト」の殺害に無人機を使用しているケースを見ると、議論は国家間の戦争に限定されない。日本においてもまた、無人攻撃機導入の議論が求められる可能性があり、そのためには、道義的問題を理解しておく必要があるだろう。次回で紹介するように、無人攻撃機の使用は、その運用方法を巡って国際社会で議論が持ち上がっている。日本の目の前には、これらを導入するべきか、するならば、いかに導入するべきかという問題と共に、既に導入済みの国々が不適切な使用を行った場合、どのような立場を取るべきかという問題も突きつけられているのである。

つづく

参考文献

1. Hasan, Nabil. イエメン最大の空軍基地でドローン攻撃、政権側 6人死亡 和平の障害となる恐れ. AFPBB News.(オンライン) 2019年1月11日.(引用日:2019年4月8日.) https://www.afpbb.com/articles/-/3205950.
2. Kubovich, Yaniv, Harel, Amos. Israel Says Downed Iranian Drone Was Armed and Heading for Attack. Haaretz.(オンライン)2018年4月13日.(引用日:2019年4月17日.) https://www.haaretz.com/israel-news/israel-says-downed-iranian-drone-wasarmed-and-heading-for-attack-1.5995243.
3. Gross, Judah Ari, TOI STAFF. Iranian UAV that entered Israeli airspace seems to be American stealth knock-off. The Times of Israel.(オンライン)2018年2月10日.(引用日:2019年4月17日.) https://www.timesofisrael.com/iranian-uav-that-entered-israeli-airspace-seems-to-be-american-stealth-knock-off/.
4. Israel Defense Forces. IDF intercepts Iranian UAV. Israel Defense Forces.(オンライン)2018年2月10日.(引用日:2019年4月8日.) https://www.idf.il/en/minisites/press-releases/idf-intercepts-iranian-uav/.
5. 部谷直亮 . ついに発生した人類史上初の集団ドローン攻撃 . JBPress.(オンライン)2018年2月26日.(引用日:2019年4月8日.) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52395.
6. Associated Press. Russia launches airstrikes in Syria’s rebel-held Idlib. AP News.(オンライン)2018年9月5日 .(引用日:2019年4月17日.) https://www.apnews.com/1de865c7fe9641fe8b949b5a74683f51.
7. Sputnik. Rissian Air Defenses Intercept Objects Targeting Hmeimim Base. Sputnik.(オンライン)2018年4月24日 .(引用日:2018年7月6日.) https://sputniknews.com/world/201804241063873552-russian-air-defenses-intercept-objects/.
8. ―. Russian Air Defenses Intercept Projectile Targeting Hmeymim Base in Syria. Sputnik. (オンライン)2018年5月21日.(引用日:2018年7月6日.) https://sputniknews.com/middleeast/201805211064662354-air-defences-take-out-drone/.
9. The Syrian Observatory for Human Rights. Explosions rock the outskirts of Lattakia city believed to be caused by a battle between drones and the air defenses south of the city. The Syrian Observatory for Human Rights. (オンライン)2018年9月5日.(引用日:2018年9月14日.) http://www.syriahr.com/en/?p=101745.
10. PTI. Syrian media say five drones shot down near Russian air base. the New Indian Express. (オンライン)2018年8月14日.(引用日:2018年9月14日.) http://www.newindianexpress.com/world/2018/aug/14/syrian-media-say-five-drones-shotdown-near-russian-air-base-1857761.html.
11. 時事通信社. ロシアがイドリブ空爆再開=3週間ぶり、総攻撃迫る―シリア. Yahoo!Japan ニュース.(オンライン)2018年9月4日.(引用日:2018年9月16日.) https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180904-00000102-jij-m_est.
12. TASS. Militants’ drone downed over Syrian army positions in Latakia ― Reconciliation center. TASS. (オンライン)2018年9月21日 .(引用日:2018年9月25日.) http://tass.com/world/1022674.
13. Adra, Zen. Syrian Army shoots down armed drone in northern Latakia. Al-Masdar News. (オンライン)2018年9月23日.(引用日:2018年9月25日.) https://www.almasdarnews.com/article/video-syrian-army-shoots-down-armed-drone-in-northern-latakia/.
14. The Syrian Observatory for Human Rights. After more than 4 months, Hmeimim Airbase targets a drone in the sky of Jableh area where the Airbase is located. The Syrian Observatory for Human Rights. (オンライン)2018年11月28日.(引用日:2019年4月17日.) http://www.syriahr.com/en/?p=107670.
15. The Daily Star. Syria thwarts drone attack over Russia base. The Daily Star.(オンライン)2019年1月28日.(引用日:2019年4月17日.) http://www.dailystar.com.lb/News/Middle-East/2019/Jan-28/475145-syria-thwarts-drone-attack-over-russiabase.ashx.
16. The Bureau of Investigative Journalism. Afghanistan: US air and drone strikes, 2015 to present. The Bureau of Investigative Journalism.(オンライン)2019年.(引用日:2019年4月17日.) https://docs.google.com/spreadsheets/d/1Q1eBZ275Znlpn05PnPO7Q1BkI3yJZbvB3JycywAmqWc/.
17. Shachtman, Noah. Attack of the Drones. Wired.(オンライン)2005年6月1日.(引用日:2019年4月18日.) https://www.wired.com/2005/06/drones/.
18. United States Government Accountability Office. Air Force Actions Needed to Strengthen Management of Unmanned Aerial System Pilots. Washington, D.C. : United States Government Accountability Office, 2014. GAO-14-316.
19. ―. Unmanned Aerial Systems Air Force Pilot Promotion Rates Have Increased but Oversight Process of Some Positions Could Be Enhanced. Washington, D.C. : United States Government Accountability Office, 2019. GAO-19-155.
20. www.GlobalFirepower.com. 2019 Military Strength Ranking(BETA). Global Firepower.(オンライン)2019年.(引用日:2019年3月22日.) https://www.globalfirepower.com/countries-listing.asp.
21. 防衛省 . 滞空型無人機(グローバルホーク)の三沢基地配備(平成31年度末以降)について . 防衛省・自衛隊 .(オンライン)2016年12月21日.(引用日:2019年4月18日.) https://www.mod.go.jp/j/press/news/2016/12/21b.html.
22. 産経ニュース. 無人偵察機「グローバルホーク」三沢に配備 . 産経ニュース .(オンライン)2016年12月21日.(引用日:2019年4月18日.) https://www.sankei.com/politics/news/161221/plt1612210031-n1.html.

PAGE TOP