無人航空機と変容する兵士像(2)

CISTEC Journal 5月号掲載[2019.6.13]

国際社会からの懸念

1. 国際世論の興隆

 無人機による新しい形の攻撃に対し、国際社会からは懸念が表明されてきた。最初期の議論としては、2010年の国連総会で、特別報告者アルストン(Philip Alston)教授から標的殺害(targeted killings)に対する国際法上の懸念が報告されている。同報告の中では、標的殺害という言葉を、様々な文脈で使用される言葉であるとしながら、その文脈に共通する要素は「加害者によって事前に特定された個人、または複数の個人に対する、一定の計画の上でなされる、意図的かつ計画的に用いられる致死的行為の実施」であるとしている。これには、無人機による攻撃だけではなく、狙撃や毒殺までもが含まれる。そして、懸念される新技術として、無人機の利用と、その技術の普及が挙げられている。アルストンは、無人機を遠隔地から使用することによって、攻撃国の人的リスクが下がり、政治的に殺害が容易になっていることを問題視している。

 同報告書では、このような標的殺害は「いくつかの国家によって」なされているとされ、具体例として、米国だけではなく、イスラエルやロシアのケースも取り上げられている。また、同レポートによれば、標的殺害は、武力紛争下で実施される場合と、武力紛争下以外で行われる場合があるとされている。この前者においては、戦闘員ではない者が標的とされることや、一般市民の巻き添えの懸念がポイントとなっている23 p.4-5。そして後者においては、まず、攻撃主体が法執行機関である必要性が主張されている。しかし、たとえ攻撃を法執行機関が行う場合でも、国家が殺人を行えるのは、それ以外に人命を守る手段がない場合に限られるとし、それゆえに、殺害を唯一の目的とする標的殺害は、国際法上、合法となり得ないとしている23 p.10-11

 このような懸念は国連で繰り返し議論されている。以下の年表に示した通り、上記のレポートを含めて、2010年から2014年に掛けて特別報告者によって4回の報告がなされている。また、人権保護団体アムネスティ・インターナショナルも2012年に関連したレポートを発行している。そこでは、米国の無人機を使用した「標的殺害」政策が基本的人権を侵しているとして非難されている24

【無人機による攻撃に対する国際世論の興隆】

 2010年5月国連総会で、特別報告者アルストン教授から、無人機や毒物を使用した「標的殺害」が法的手続きを踏まない殺害であるとして、懸念が報告される。 
 2012年6月アムネスティ・インターナショナルから米国の無人機を使用した「標的殺害」政策が基本的人権を侵しているとして、懸念が示される。
 2013年9月国連人権理事会で二人の特別報告者ヘインズ、エマーソンから無人機による攻撃に対する懸念を示すレポートが相次いで報告される25, 26
 2014年2月国連人権理事会でエマーソンから無人機による攻撃に対する懸念をしめすレポートが報告される27

2. 国際世論に対する米国の対応

 前節で描いたような国際世論における非難は、欧州連合(EU)を動かした。欧州議会は独自に、戦場以外で武装無人機を使用することを禁じる法案を2014年2月、圧倒的多数で可決している28。しかし、米国の反応も早かった。それより半年以上早く、オバマ大統領は対応を行っている。2013年5月のこと、米国で無人機攻撃に新たなガイドラインが設定され、ホワイトハウスから発表された。その内容は、要約すると以下の三項目からなる29

(1)捕捉の優先:捕捉が可能な場合、これを優先し、致死的な力を行使しない。
(2) 致死的な力の行使の基準:罰としてではなく、米国民への攻撃を防ぐために、他の方法がないときにのみ致死的な力を行使する。更に、現行の戦闘地域(the areas of active hostility)以外での力の行使は以下を前提とする。

(ア)法的根拠がある
(イ)対象が米国民に継続的で切迫した脅威を与えている
(ウ)以下の各基準を満たしている①テロの標的が存在することがほぼ確実である

①テロの標的が存在することがほぼ確実である
②非戦闘員がほぼ確実に死傷しない
③作戦上、その時点で捕捉は現実的ではないと評価される
④現地政府が効果的に米国民への脅威に対処できない、またはしないと評価される
⑤米国民への脅威に対応する効果的手段が他にないと評価される

(3)国際法の尊重:主権の尊重、武力紛争法を含む国際法原理の強い制限を受ける

 これらの基準は、一部は既に導入されており、他は、これから徐々に導入されていくものであるとされている。しかし、実際のところ、この2013年のガイドライン導入を境に、標的殺害が減少したかどうかははっきりしない。「現行の戦闘地域」外の無人機攻撃が頻繁に行われていたパキスタンにおける攻撃件数は、2011年の同国内でのウサマ・ビン=ラーデン(武装組織アルカーイダの指導者)殺害後、既に減少傾向にあった。数字だけで見ると、オバマ大統領の声明と攻撃件数の直接的な関係は見出しにくいのである。

 とはいえ、少なくともオバマ大統領は、国際社会の非難を受けて、国際法を尊重した運用基準というものを米国なりに定義し、それで自らを縛ることを表明した。しかし、上記ガイドライン発行の声明文を読むと、そこには、正確さ、正当さを追求する姿勢は示されているが、標的殺害を減らすと書かれている訳ではない。示されているのは、今まで秘密にしてきた標的殺害の情報を可能な限り国民と議会に開示すること、それを法や価値観に照らして運用することである。ただ、そこに「政策方針として軍事力が使用されるべきかという別の疑問点を検討する」とも示されている。これは、テロとの戦いに標的殺害を使用することに対する懸念や疑念に対しても、継続的な課題として取り上げ続ける姿勢を示したものかもしれない。

3. 葬列へと変わった婚礼

 オバマ大統領によるガイドラインの発行から僅か7ヶ月後の2013年12月、イエメンの婚礼の車列が、無人機から発射された4発のヘルファイア(空対地ミサイル)によって攻撃された。この攻撃によって少なくとも12名が死亡し、花嫁を含む少なくとも15名が負傷、そのうち6名は重傷であった。攻撃はアラビア半島のアルカーイダ(AQAP)のメンバーを狙ったものであり、婚礼の車列の中にそのメンバーが居た可能性があったようだ。しかし、実際にその人物(たち)が居たのか居なかったのか、誰だったのか、生死も含めて米国側は明らかにしていない。

 この攻撃で多数の市民が巻き添えとなったことは明らかで、地域の政府と軍司令官は遺族に対し、謝罪として金とアサルト・ライフル(謝罪のしるしとして与える習慣があるらしい)を贈っている。この攻撃に対しては、国際法に違反しているとして、ヒューマン・ライツ・ウオッチが非難を表明している30。また、この攻撃は、オバマ大統領が自ら設定した先述のガイドラインの「非戦闘員がほぼ確実に死傷しない」とした基準や戦時国際法に反しており、また、その他の基準を満たしているかどうかも不明確であると指摘されている31

 誤爆はそれが「誤り」である以上、ガイドラインの設定のある無しにかかわらず、発生することはあるだろう。しかし、ガイドラインの運用が確実にされていれば、自ずと民間人の被害者は減るはずである。その意味でイエメンでの事件は、このガイドラインが運用において、実態を伴っているのか疑問を感じさせる事件であった。

4. 誤爆は多いか少ないか

 無人機による標的殺害で常に注目され話題となるのが、市民の被害者である。無人攻撃機は、単座(一人乗り)や複座(二人乗り)の有人攻撃機と異なり、地上に設置された施設から遠隔操作する。従って、大勢が攻撃に関与することが可能であり、実際にそのような運用がなされている。このことによって、有人機に比べ、無人機の方が、妥当性のある(例えば、誤爆ではない)攻撃を実現できるのではないかと期待する意見もある。標的殺害の司令塔であるCIA(米中央情報局)で長官を務めたマイケル・ヘイデン退役空軍大将は、退官後、ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、無人攻撃機による標的殺害を「武力紛争史上、最も正確で効果的な火力の使用」と評している32

 表1に示したのは、無人機による攻撃結果を、2019年4月17日時点での最新の累計値で示したものである33。ここに挙げた三カ国のうち、パキスタンでの無人機攻撃は、2018年7月を最後に起こっていない。イエメンとソマリアでの攻撃は現在進行中で、最新の攻撃はそれぞれ2019年3月と2019年4月に行われている。パキスタンとイエメンは、共に、その被害者に占める一般市民の比率は6.6~12.8%、6.6~10.9%と、およそ、10人に一人か、それ以下程度である。ソマリアでは、1.7~4.3%と、20人に一人以下と、更に比率が下がる。

表1. 米軍の無人機攻撃による死傷者内訳(2019年4月17日時点の累計)

地域市民(人)戦闘員(人)不明(人)合計(人)市民の比率(%)
パキスタン245~3031,910~3,071211~3282,366~3,7026.6~12.8
イエメン116~1491,184~1,51862~891,362~1,7566.6~10.9
ソマリア24~531,161~1,29838~601,223~1,4111.7~4.3

 このような数値を見ると、高空から大量の爆弾を落として、建物や街を吹き飛ばしていた時代と比べると隔世の感がある。それでもなお、無人機攻撃による民間死傷者がこれだけ注目を集めているのは、第一に、先述の国際法上の問題があるためであろう。そして、機器の精度が高まり、じっくりと攻撃の是非を検討できる環境が整えられた今、それにもかかわらず、なお市民に死者が出ているということも問題視されているのだろう。技術は確かに向上したが、それに伴い、人道意識から世論に求められる精度の水準もまた上がっているのである。

つづく

参考文献

23. Alston, Philip. Report of the Special Rapporteur on extrajudicial, summary or arbitrary executions. 出版地不明 : United Nations Human Rights Council, 2010. A/HRC/14/24/Add.6.
24. Amnesty International. United States of America ‘Targeted Killing’ Policies Violate The Rights to Life. London : Amnesty International Publications, 2012.
25. Heyns, Christof. Report of the Special Rapporteur on extrajudicial, summary or arbitrary executions. 出版地不明 : United Nations Human Rights Council, 2013. A/68/382.
26. Emmerson, Ben. Report of the Special Rapporteur on the promotion and protection of human rights and fundamental freedoms while countering terrorism. 出版地不明 : United Nations General Assembly, 2013. A/68/389.
27. ―. Report of the Special Rapporteur on the promotion and protection of human rights and fundamental freedoms while countering terrorism. 出版地不明 : United Nations Human Rights Council, 2014. A/HRC/25/59.
28. The European Parliament. European Parliament resolution on the use of armed drones (2014/2567(RSP)) . European Parliament.(オンライン)2014年2月25日.(引用日:2019年4月12日.) http://www.europarl.europa.eu/sides/getDoc.do?pubRef=-//EP//TEXT+MOTION+P7-RC-2014-0201+0+DOC+XML+V0//EN.
29. The White House. U.S. Policy Standards and Procedures for the Use of Force in Counterterrorism Operations Outside the United States and Areas of Active Hostilities. The White House.(オンライン)2013年5月23日.(引用日:2019年4月12日.) https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2013/05/23/fact-sheet-us-policy-standards-and-procedures-use-forcecounterterrorism.
30. Human Rights Watch. A Wedding That Became a Funeral. Human Rights Watch.(オンライン)2014年2月19日.(引用日:2019年4月12日.) https://www.hrw.org/report/2014/02/19/wedding-became-funeral/us-drone-attack-marriage-processionyemen.
31. ―. US: Yemen Drone Strike May Violate Obama Policy. Human Rights Watch.(オンライン)2014年2月19日.(引用日:2019年4月12日.) https://www.hrw.org/news/2014/02/19/us-yemen-drone-strike-may-violate-obama-policy.
32. Hayden, Michael V. To Keep America Safe, Embrace Drone Warfare. the New York Times. (オンライン)2016年2月19日.(引用日:2019年4月2日.) https://www.nytimes.com/2016/02/21/opinion/sunday/drone-warfare-precise-effectiveimperfect.html.
33. New America. America’s Counterterrorism Wars. New America.(オンライン)(引用日:2019年4月18日.) https://www.newamerica.org/in-depth/americas-counterterrorism-wars/.

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